サラダサイエンスインタビュー
「サラダとは?」を多角的に、広い視野で!
司会)今回は、ケンコーマヨネーズが東京海洋大学に開設している『サラダサイエンス寄附講座』について、その内容を色々お伺いします。
まず、サラダサイエンス寄附講座では、これまでどんな研究をされてきたのですか?
鈴木)サラダサイエンスは2013年に設立され、おかげさまで2022年で9年目となり、最初の5年は、白井教授、松田先生がお二人で、主にサラダ素材に含まれる機能性の研究をされていました。
学会発表や論文も書かれており、非常に成果があったと思います。
2018年からは、わたくし鈴木と李先生が担当しています。私共に変わってからは、もう一度「サラダってなんでしょう、サラダとは?」というところを問い直してやっていこう、と。
もちろんサラダは、色々な素材を使用し、フレッシュなイメージはあるものの、フレッシュなものだけをサラダというわけではない、というところも非常にややこしい。
ケンコーマヨネーズの西田さんは、「サラダとはなんだ」というところを私よりも前から追求していらっしゃいます。
このような問い直しは社会学的な意味もあるわけで、「サラダ」という社会学的な観点も考慮しつつ、自然科学に基づいたサラダの研究を行っています。
特に私は、食品の冷凍の研究、保存の研究を主に行っていましたので、それを活かせる研究をしていこうということで取り組んでおります。
研究内容の詳細
サラダサイエンス寄附講座では、「サラダとは?」を解明するために、様々な素材、視点から「サラダ」を研究しています。その研究内容について、詳しくお伺いしました。
鈴木)ひとつは、ジャガイモの変化ですね。
ジャガイモは加熱すると糊化し、その後冷却すると老化するという現象があります。その老化に伴って消化性が変化し、人間が摂取したときにレスポンスが変わるということです。
そこを、血をとらなくても血糖値が測れる最新の機械を活用しながら、リアルタイムで色々な状態のジャガイモを摂取したときの血糖値変化の研究を行っています。
ここが当研究室でのメインテーマです。
それから、生姜です。
生姜って実は、古くから使用されている世界的な産物です。
生姜には体温を上げるとか、内臓の血流をよくするなどの効果が言われていますが、意外とその素材の変化は知られていないため、そこを深堀してサラダに活かしていけたらなと思っています。
もう一つ重要なテーマが、サーモンの研究です。サーモンは、世界的にも非常に重要な魚であり、スモークサーモン等でサラダにもよく利用されています。
また、サーモンは資源的な問題もあり、いま取り組むべき食材だと考えています。持続性があり、海面を汚さず、効率よく生産できる方法として「陸上養殖技術」というものが最近サーモンにも適用され、目覚ましく発展しています。
その陸上養殖で育てたサーモンはサラダ素材としても非常に重要になってくるのではと思っています。
しかし、陸上養殖で育てると、海面で養殖したのとは違って、ちょっと土臭いにおいが残るんですよね。
それをいかに解決するか、ということが課題です。
そしてそんな研究をきっかけに、「においって何なんだ」「香りって何なんだ」というところに、非常に興味をもちまして。
ふと、サラダに立ち返ってみますと、サラダ素材には、色合い、味、機能性という側面もありますが、もう一つ、あまり着目されていないものに「香り」というものがあるなと。
私たちが魅力を感じるフレッシュな野菜は、何かしらの、ふと感じる香りがあります。
その重要なファクターとして「香り」があるのではないかと考えて、ここ1年くらいは香りの研究に注力しています。
サラダサイエンス研究室では、「サラダ素材の香りの研究」として今年の展示会でブース発表をさせていただきました。
素材は、枝豆です。枝豆=サラダというわけでもないですが、野菜の1つとして探求しています。
最近は、冷凍の枝豆もたくさん売られており、歯ごたえも良いし、色もきれい。ところが、実際に口にしてみると、なんだか香りがない。
一方で、夏場に採れたままの枝豆をボイルして食べると非常に香りが高い。
そこに「生と冷凍の違いがある」ということにきっと皆様も気づいているのですが、それがなぜかというのは意外とわかってない。
これはまさにサラダの香りっていうことを考えた時に共通するものがあるのではと考えています。
実は、においの研究は非常に難しくて、専用の機械を買えば出来るというものでもなく、実際にそれを使いこなすには10年くらいの熟練の技が必要です。
私はそこまで詳しくないので、日本獣医大学の先生と共同で研究を設定しまして、サラダの香りの研究をさせていただいております。
司会)研究の範囲が多岐にわたっていて、驚きました。確かにどれもサラダを考えるうえで解明したい課題ですね。
味だけじゃない!サラダの美味しさを分ける意外な要素
司会)皆様にとって、印象的な研究はありますか?
李)私は、サラダに関わる素材の1つとして取り組んでいる枝豆のにおいの研究ですね。
枝豆は、さやを口に入れて中の実を食べるという独特な食べ方をするので、さやと豆を分けて香りを考えるんです。
実験からは、さやのほうに枝豆らしい香り成分が多く含まれていることがわかりました。
つまり、さやが加熱されすぎると、香りが無くなって、枝豆の美味しさに影響するということ。
機械的な分析では、香り成分が多いか少ないかというだけですが、実際に官能検査の結果と照らし合わせることで、美味しさへの影響が直にわかります。
数値としての中身だけを考えるのではなく、色々な要因を考えながら、分析していくというところが面白いと思います。
鈴木)実際、我々が研究結果を発表した展示会でも、この枝豆の研究については、皆さん非常に興味を持たれて質問されていました。
そこをヒントに、実は野菜って、表面に色々な成分が集中しているのではないかと考えました。
機能性成分はもちろんのこと、香りの主成分なんかも。
こういうところを、今後サラダに活かしていけたら面白いのかなと思っています。
ポテトフライに使用するジャガイモも皮つきと皮むきのものがありますが、皮があると非常に薫り高い。
人間はなぜそれを好きなのか、というところも不思議ですよね。
司会)そういうところが活かせると廃棄物も減らせそうですね。今の時代に合っている感じがします。西田さん、山口さんはいかがでしょうか?
西田)当社では、様々なサラダを製造していますが、そのほとんどが野菜を加熱しています。
サラダのイメージは基本的には生(なま)ですが、生と言っても切ったり、ドレッシングで和えたり、軽く湯通ししたりなど、色々な処理をされた“生きた野菜”ではないんですよね。
そして、そのように手が加わることで香りが変わったり、栄養価が変わったりという、何らかの良さが引き出されることも今の研究からわかっています。
少量だけ入っている香り成分も加熱することで強くなったり、生だと感じないような味が塩をかけたりドレッシングをかけたりすることで感じるようになったりなどは、私も経験があります。
またお茶漬けは、冷ご飯で食べた方が太りにくいというものがありまして。冷やすことで、でんぷんの消化性が悪くなり、体内で吸収されにくくなるんですよね。
冷やして食べるポテトサラダは血糖値が上がりにくいということも、こちらの話と関連していて。
手を加えることでサラダの美味しさや機能性が変化すること、そして解明していくところが面白いところですね。
山口)私も色々面白いことを学ばせてもらっています。
ポテトサラダのレジスタントスターチ(消化されずに大腸まで届くデンプン(難消化性デンプン))に関しても、最初は実験に用いるじゃがいも内の含有量の変化というところから、今は「食べた人へどう作用するのか」というところに研究が進んでいて、この先の進展も非常に興味深いです。
また特に印象深かったものが、以前取り組んだサラダと色彩の研究です。サラダってまず見た目で楽しむところがありますよね、味の前に。
研究により、赤が多いと美味しそうに感じ、紫が入ると個性的・魅力的に感じるということが科学的にわかったんです。
食の研究の中に心理学的な要素も入ってきて、非常に勉強になりました。