サラダサイエンスインタビュー
日本のサラダは冷蔵技術の発展のもとに広まった
司会)そもそも、なぜ東京海洋大学にケンコーマヨネーズの寄附講座を開設したのかを教えてください。
西田)サラダによく使うレタス、キャベツ、タマネギ等は常温保管でもある程度の賞味期間はあるのですが、サラダに使うなら出来れば冷蔵管理されたものがいいんです。 野菜は、最近の市場では温度管理されてきていますが、八百屋さんでは今でも一部野菜を除いてほとんど常温に置かれています。 ですから、今も冷蔵技術のノウハウって農学部の方ではあまりないんですよね。 そして、冷蔵下での取り扱いや微生物の反応などのノウハウがあるのは、かつてより冷蔵技術が必須だった水産業界なんです。 「生の状態で、調味料と合わせて味わうもの」という一般的なサラダのイメージに従えば、お刺身も野菜が入ってないだけである意味サラダと言えばサラダですから。 そのような背景から、チルドに関して強い東京海洋大学に寄附講座を設けて、冷蔵技術を活かしながらサラダの研究をさらに深めていただきたいと思ったわけです。
鈴木)冷凍から冷蔵まで、日本のコールドチェーン(低温かつ適切な温度管理を実現した物流)を包括するような学会では、東京海洋大学の前身、東京水産大学のメンバーが主流でした。 いま、西田さんがおっしゃったように、低温物流に関する機械装置の製作からそれら制御するプログラムの部分まで、また温度により食材がどう変化するのかを解明するところまでカバーしているのが東京水産大学でした。 農産物のおいてもコールドチェーンを整備して、出来るだけフレッシュなまま地方から移動させてロスを減らすこと、そのことに当大学が非常に貢献したと認識しています。
西田)そうですね、水産系は冷やさないと明らかに腐ってしまうので、必ずやらなきゃいけない。 野菜も常温で品質は落ちていますが食することはできる、また、冷蔵はコストもかかるためなかなか導入が進まない。 野菜の廃棄って、腐った場合が多いんです。 そのあたりは、食品ロスの観点から改善されなければいけないところですよね。
鈴木)野菜はちょっと劣化すると、外見からすぐにわかるんですよね。そういうところで商品価値を失ってしまうというところがありますよね。 なので野菜に関しては、冷蔵・冷凍の技術も大事で。 私は元々冷凍の専門なのでそちらの立場からお話しさせていただくと、実際は、冷凍で物流している野菜って非常に多いんです。 フレッシュで食べる野菜って、実はそれほど多くないんですよ、野菜全体のボリュームから見ると。 ほとんどは加熱して食べるような食材ということです。 冷凍技術は、加熱して食べるような食材に関しては、ある程度対応性があるので、もっと冷凍野菜を原料としても、加工品としても使っていった方が良いんじゃないですか、というのは昔から言っていたんです。
徹底した企業の原料管理ノウハウが、学生実験においても役立つワケ
司会)寄附講座では、東京海洋大学の学生さんと企業の関わりもあると思いますが、ここから得られた経験などはありますか?
李)実験試料として質の良いジャガイモをいただく事ができるため、信頼できる実験が出来ています。今まではスーパーで買ったものを使用していましたが、産地や品種、購入時期によって、原料の特徴が変わってくるんですよね。ですので、同じ実験をしても結果が変わってくことがあります。企業ではしっかりと原料を管理することを理解し、その原料を実験試料とすることで有効な結果が得られていると感じます。また、このように企業のこだわりを知る機会も、学生にとってはいい学びになっていると思っています。
山口)当社では、北海道の契約農家で栽培したジャガイモを船便で工場近くまで運び、温度・湿度が管理された冷蔵庫に保管し、1年を通じて使用しています。 ジャガイモでいうと、実は当社では日本で栽培しているものの1%くらい使っているんです。 まとまった量を使用する当社や当社以外の企業様は、原料をしっかり管理されていると思います。
司会)原料の品質の大切さは、研究も商品開発でも同じなんですね。企業としてはいかがですか?
山口)一つは、商品を介さず社会に関われる点かと思います。 当社のグループ経営方針「サラダNo.1企業を目指す。」というものがありますが、「No.1」とは売上だけではなく、「サラダ」に関するあらゆる分野を指しています。 その中で「サラダサイエンス」という分野は、今まであまりメインで取り組まれていないところだと思いますので、大学の寄附講座を通じてサラダサイエンスが広く認知されることは当社としても嬉しいです。 また、定期的に開催していただいているサラダサイエンスシンポジウムが、サラダや野菜に関する知見の発表の場であり、研究者との交流の場になっていて、すごく有意義な機会となっています。 そして、先生のところではすごく広い視点で研究されていて、企業の中にいる私達では思いつかないような研究もあるため、サラダサイエンスにとってもすごくいいことではないかなと思います。
司会)最初にお話しがあったように、サラダはあらゆるところに繋がっているため、様々な立場、視点をお持ちの方が研究に参加することは「サラダサイエンス」にとっての大きなメリットなんですね。